0番染色体

科学は全世界を照らす光である

初学者におすすめの生物学入門書7選

昨年,大学の教養の授業に「生命科学」という講義があったため,何人かの友人から「生物学の手頃な入門書って何?」という質問を受けました.そして,これが意外と答えに窮する質問で,自分は自信をもって推薦できる初学者向けの生物学の入門書を知らないということに気づきました.

そこで最近,私は書店や図書館で30冊以上の生物学入門書を手に取り,あれこれと比較を行ってみました.今回は,その中で私が良いと思ったものを厳選して紹介することにします.

「初学者」といっても,生物に興味をもつ中学生や高校生,教養ではじめて生物に触れる大学生,あるいは社会人になるまで触れてこなかったが今から生物学を始めたい人など,色々なケースがあるはずです.選考にあたってはこの点を考慮し,それぞれが趣きの異なった特徴をもつものを配列するよう工夫をしました.

生命科学概論

生命科学概論―環境・エネルギーから医療まで

生命科学概論―環境・エネルギーから医療まで

2色刷りの見やすいレイアウトが印象的な概説書です.早稲田大学先進理工学部生命医科学科の教授陣が執筆しています *1

内容はそれほど重くなくバランスが良いように思えました.研究者の執筆する本は,しばしばその人の研究分野について詳しくなりすぎて,学問全体を概説する入門書としてはいまいちな仕上がりとなる傾向がある気がしますが,この本はそういった"妙な細かさ"を感じさせませんでした.

また,最終章の「レギュラトリーサイエンス」というテーマはとても特徴的です.こうした実用的な内容が1章にコンパクトにまとめられているのは,他の本ではなかなか見受けられないものです.特に,「いずれは生物系を目指そう」と考えている方にはこれらの内容も非常に有益なのではないでしょうか.

やさしい基礎生物学

やさしい基礎生物学 第2版

やさしい基礎生物学 第2版

ここからの3冊は比較的ライトなものを選びました.

『やさしい基礎生物学』は題名の通り,「やさしく」本当に「基礎」が解説されているという印象を受けました.フルカラーの割には値段も抑えめです.

あまり踏み込んだ細かい内容までは扱っていないようですが,それでも最低限のことはまとめられています.高校生物程度の内容を手短に学ぶのに適しているのではないかと思います.

なっとく!生物学

大学1年生の なっとく!生物学 (KS一般生物学専門書)

大学1年生の なっとく!生物学 (KS一般生物学専門書)

あからさまなまでに暗記に特化した,まるで受験参考書のような生物学の入門書です.すなわち,重要単語は赤いインクで印刷されており,付属の赤いシートを使うとその部分を消すことができるという,受験業界ではおなじみの手法が採られています.

私は,多くの生物学関係者と同様「生物は暗記科目ではない」という立場ですが,このことは暗記が不要ということを意味しません.生物の議論をしようと思えば,最低限の知識はきちんと暗記している必要があることは事実です.この本を最初に開いた時はどうかと思いましたが,頭から機械的に暗記を行っているうちに案外自然と生物学の流れが見えるものなのかもしれないと思い,7選に含めることにしました.

また,基本的なコンセプトが受験勉強に近いため,受験勉強が得意な人や受験勉強に慣れている人にとっては,そのノウハウを活かして生物学を勉強できる貴重な書籍かもしれません.

理解しやすい生物

理解しやすい生物 生物基礎収録版 (理解しやすい 新課程版)

理解しやすい生物 生物基礎収録版 (理解しやすい 新課程版)

さきほど『やさしい基礎生物学』を「高校生物程度の内容を手短に学ぶのに適している」と評しましたが,こちらは本物の「高校生物の参考書」です.特に中高生が生物を学びたいと思うのであれば,まずはこの辺から始めるのがやはり無難だと思います.

実を言うと,私がはじめて生物を勉強したのはこの本 *2 でした.中学3年のときに一周読みきりました.フルカラーで絵本のようですが,高校生物として必要な知識はちゃんと網羅されています.

あるいは大学生や大人であっても,生物学の平易な入門書として,こうした高校生物の参考書は有用なのではないかと思います.以下,ついでなのでいくつか私が高校時代に使用していた参考書を紹介しておきます.

生物用語集 (駿台受験シリーズ)

生物用語集 (駿台受験シリーズ)

駿台文庫の生物用語集です.そもそも高校生物の参考書で「用語集」というのがこれを含めて数えるほどしかないのではないかと思いますが,この本はなかなかの名著だと私は思っています.用語集なので,知らない用語が出てきたときに調べるのにも使えますし,案外はじめから読み物にしても楽しめます.

スクエア最新図説生物neo

スクエア最新図説生物neo

加えて紹介するのはいわゆる「資料集」です.まとまった文章で体系的に生物を解説するものではなく,ページのほとんどが図で構成されているような本です.普通は決まった教科書の副読本として,教科書に合わせて関連ページを参照するような形で使用するものですが,世の生物好きはかなりの確率でこれを暇なときに眺めるのに使用しているのではないかと思います.教科書には書いていない細かい知識が興味に応じて自然と頭に入ってくるのがこうした勉強法の利点です.

大学生物学の教科書

カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第1巻 細胞生物学 (ブルーバックス)

カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第1巻 細胞生物学 (ブルーバックス)

  • 作者: クレイグ・H・ヘラー,ゴードン・H・オーリアンズ,デイヴィッド・M・ヒリス,デイヴィッド・サダヴァ,浅井将,石崎泰樹,丸山敬
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/02/19
  • メディア: 新書
  • 購入: 11人 クリック: 326回
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カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学 (ブルーバックス)

カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学 (ブルーバックス)

  • 作者: デイヴィッド・サダヴァ,クレイグ.H・ヘラー,ゴードン.H・オーリアンズ,ウィリアム.K・パーヴィス,デイヴィッド.M・ヒリス,石崎泰樹,丸山敬,浅井将,吉河歩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/05/21
  • メディア: 新書
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カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第3巻 分子生物学 (ブルーバックス)

カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第3巻 分子生物学 (ブルーバックス)

  • 作者: デイヴィッド・サダヴァ,クレイグ.H・ヘラー,ゴードン.H・オーリアンズ,ウィリアム.K・パーヴィス,デイヴィッド.M・ヒリス,石崎泰樹,丸山敬,吉河歩,浅井将
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/08/20
  • メディア: 新書
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カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第4巻 進化生物学 (ブルーバックス)

カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第4巻 進化生物学 (ブルーバックス)

カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第5巻 生態学 (ブルーバックス)

カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第5巻 生態学 (ブルーバックス)

私の高校時代の記憶では3巻までしかなかったはずなのですが,いつの間にか4巻5巻が登場していたようです.その結果,以前はかなりミクロ寄りであったシリーズが,マクロ分野の2巻を加えてバランスのとれた構成になりました.

この本は,ブルーバックスであるため本自体のサイズも文体も「読み物」として扱うのに適しており,例えば電車の中でも読みやすい本となっています.その上で,内容もしっかりしていて図もきれいなので,すきまの時間を利用して生物学を独学したいという人におすすめのシリーズです.

ライフサイエンスのための生物学

ライフサイエンスのための生物学

ライフサイエンスのための生物学

はじめて手にとったときは「なんて冴えないタイトルなんだ……」と思いましたが内容は期待以上でした.もっというと,個人的には本記事で紹介している入門書の中で一番のおすすめです.

かなり最近出版されたフルカラーの本で,少々値が張る感じは否めないですが,配列の自然さとバランスの良さが個人的にピンと来ました.内容は重すぎず,むしろ若干軽めといった具合で,初学者でも途中で挫折するリスクを低く抑えられるのではないでしょうか.各章末の演習問題も単純すぎてつまらないものの羅列ではなく,ちょっと気の利いたものになっていて楽しく解けそうでした.

特定の分野の深い知識を得たい場合には当然別の書物が必要になるでしょうが,入門書として生物学を俯瞰するためには最適の本だと思います.

エッセンシャルキャンベル生物学

エッセンシャル・キャンベル生物学

エッセンシャル・キャンベル生物学

「いわゆるアメリカの教科書」という印象,と言って伝わるでしょうか.簡単に言うとフルカラーで分厚く,情報量が多いのがその特徴です.それでも,この『エッセンシャルキャンベル生物学』は下に掲載する本家の『キャンベル生物学』から重要な部分を抽出したものという位置づけになっています.具体的には細胞,遺伝,進化,生態学に関する内容が記載されています.

ただし,「エッセンシャル」でもかなりの"重み"がある感は否めないので,本気で生物学に挑む気がないと挫折することになりかねないかもしれません.また,逆にそれほど本気で生物学に取り組む気があるのであれば本家『キャンベル生物学』に手を出しても悪くはないかと思います.高くて(物理的にも)重い本ではありますが.

キャンベル生物学 原書9版

キャンベル生物学 原書9版

なお,この『キャンベル生物学』は国際生物学オリンピック委員会が推薦するぐらいの定評があります.

一方,キャンベルはそうした意味で一種の"ブランド"であるためか,本家・エッセンシャルともにある程度値の張る書籍となっています.値段を押さえた上で,かつ先に述べたような「アメリカ流」の特徴を備えた教科書を望むのであれば『スター生物学』という教科書も選択肢の一つとして考えてみても良いかもしれません.

スター 生物学

スター 生物学

おわりに

7選と言っておきながら,関連本も合わせて紹介した結果,実際にはそれ以上の数の本を登場させることになってしまいました.それぞれの本にそれぞれの特徴があり,また入門書の場合は各人の相性というものもありますから,上記のうち「これが良さそう」と思ったものを手にしてみるといいかと思います.

この記事の作成にあたって,そもそも私のような教育者でも研究者でもない一介の大学生が「入門書7選」などといってリストを作って意味があるのかということを,当然のことながら考えました.しかし,生物学と何十年も付き合っている人間が,これからはじめて生物学に触れる人の気持ちを正確に理解できるかというと,かえってその方が疑問です.私は,生物学とは中学3年の頃からの付き合いなので,今年は5年目にあたるわけですが,むしろこのぐらいの付き合いの人間の方が初心者に入門書を紹介するには適切なのではないか,そう考えてこの記事の公開を決めました.

思えば,生物と付き合いはじめてからのこの5年間で様々な経験を積んできました.数多くの生物学の本を読んだのみならず,高2のときにアメリカの研究室に1週間ほど見学させてもらったり,高3のときに日本生物学オリンピックに遊びに行かせてもらったりなど,楽しいことが多かったように思います.そうした楽しさは,すべて生物学がもつ楽しさに起因していることは疑いなく,こうした楽しさを1人でも多くの人に共有できたらと私は思っています.

この入門書のまとめ記事が,多くの人が生物学に触れるきっかけとなってもらえれば,それ以上に嬉しいことはありません.

*1:某小保○氏の指導教官,常田教授の名前も執筆陣に含まれていました.もっとも,これはあまりプラスの評価につながりませんが……

*2:正確には,ここで紹介しているよりも古く旧課程に対応していた『理解しやすい生物I・II (改訂版)』という本です.