THE CELL 第6版を購入 ― 第5版との比較
Molecular Biology of The Cell(通称:THE CELL,邦訳書名:細胞の分子生物学)といえば有名な分子生物学の教科書ですが,私はこれまで中3のときに購入した第5版(邦訳)を使用してきました.かねてから原書が欲しいとは思っていたものの,第6版が近々刊行されるということだったので,つい最近までその状況を長引かせていました.
そのような状況の中,この前の木曜日にみなとみらいのパシフィコ横浜で開催されていた日本分子生物学会の展示会場で来年1/12発売予定の第6版(原書/ペーパーバック版)を先行販売しているのをみつけたので,購入しました.
- 作者: Bruce Alberts,Alexander Johnson,Julian Lewis,David Morgan,Martin Raff,Keith Roberts,Peter Walter
- 出版社/メーカー: Garland Science
- 発売日: 2014/12/02
- メディア: ペーパーバック
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第6版はまだ購入したばかりなので,あまり読み進められていませんが,現在時点で私が把握しているこの新しいTHE CELLの第5版からの変更点をまとめてみようと思います.
章立ての変更と内容の追加
はじめに,第5版と第6版における章立ての違いを比較するために目次を見るのですが,ただ見るだけではなかなかその違いに気付きずらいので,内容の対応する章(Chapter)が対になるように1つの表にまとめてみました *1 .
すると,いくつかの細かい変更がなされていることがわかります.
まず,有性生殖(sexual reproduction)に関する章がなくなり全体の章の数が1つ減っていることがわかります.ざっと見たところ,第5版における第21章は第6版のどの章にも収録されていないようだったので,有性生殖に関する記述は第6版ではそのほとんどが削減されたようです *2 .
次に,第III部の名称が "METHODS" から "WAYS OF WORKING WITH CELLS" に変更されていますが,これは名称をより具体的で明確なものに変更したというだけで,本質的な違いはないものと思われます.ただ,そうしたところにまで気を配ってテキストを作成している編集者の執念が感じられるといったところでしょうか.
これらに加えて,いくつかの章の名前が変更されています.例えば,第8章はもともと "Manipulating Proteins, DNA, and RNA" とタンパク質,DNA,RNAだけを対象としていたのが,"Analyzing Cells, Molecules, and Systems" になって細胞,分子,システムとより広範な対象が掲げられています.動詞が manipulate から analyze に変更されたのも,単なる気分ということではなく,今回新たに「細胞の機能を数学的に解析する」ことを説明した節が加わったからであると思われます.
また,各章の末尾にある参考文献(References)を見ると,前回の改訂(2008年)以降の論文も多数引用されていることがわかります.最も新しいもので2014年に発表された知見までが,第5版の内容の上に重ねられているようです.
ここまでに紹介した変更点とは別に,公式サイトによると以下のような内容が追加されているようです.
- 新たに発見された「RNA分子の機能」の解説
- ヒトゲノムの構造と機能に関する最新の知見
- LC配列の細胞内部構造に対する寄与の仕方
- 細胞内構造を視覚化し,遺伝子やタンパク質を分析する新手法
- 細胞内の組織や膜構造,動態,輸送の理解を深める新たな研究成果
- 新たなアプローチでの細胞シグナル伝達の基本概念説明
- 細胞骨格タンパク質の動態に関する最新の知識と「細胞構造と極性」研究との関連
- 癌の原因,遺伝性,治療についての新たな考え方の紹介
- 多細胞生物の発生におけるタイミング,増殖抑制,形態形成
- 核のリプログラミング,ES細胞,iPS細胞を含む幹細胞生物学の知識や技術
レイアウトの改善と図表の差し替え
本文のレイアウト自体はそれほど大規模な変更はされていません.強いて言えば,第5版が(表紙を含め)全体的に赤系統だったのに対し,第6版は全体に青系統になりました.結果,人によっては少し涼しげでスッキリした印象を受けるかもしれません.
また,極力紙面を有効に活用する方針に転じたようです *3 .具体的には,第5版では各PARTの始まりに1ページ(とても情報量の少ない)が割かれていましたが,第6版では1/5ページ分程度の「ヘッダー」になりました.
さらに,今回の版から新たな要素として,各章末に "What we don't know" コーナーが設けられるようになったようです.普通,教科書というものは「何がわかっているか」を解説するものですが,あわせて「何がわかっていないのか」もまとめてあるというのはとても親切だと思いました.
表のレイアウトは一新されて見やすくなりました.巻末のコドン表をひと目見比べただけでもその差は一目瞭然だと思います(左:第5版,右:第6版).
挿入図に関しては第5版と変わっていないものもありますが,ものによっては新たに捉えられたより良い顕微鏡写真などに差し替わっているものもあるようです.また,数を数えたわけではないので正しくないかもしれませんが,第6版のページをパラパラとめくった個人的な印象としては図表の数は増えているように思われました.
補助資料
THE CELL第5版には第21〜25章のPDFファイル(分量調整のため印刷されず)や本文中に解説されている様々な分子機構のアニメーション動画,本文中で使用された図表のデータ(jpeg,pptx形式)などが収録されたDVDが付属していましたが,第6版ではDVDの付属はなくなりました.
代わりに,公式サイトから以下のようなコンテンツを閲覧(ダウンロード)できるようです(要登録).
【教員用(Instructors Resource)】
- 本文中で使用された図表のデータ(jpeg,pptx形式)
- 節見出し・テーマ見出し・テキスト掲載の図表がまとめられたPowerPoint用ファイル
- WMV・Quicktimeフォーマットで利用可能なナレーション付き動画
- 多様な問題形式の問題集
- 上記問題集を使用するためのソフトウェア
- テキスト内の医学分野のトピックスをまとめたファイル
- 教員と学生が利用が可能なマルチメディアツール
【学生用(Students Resource)】
- 細胞生物学の幅広いテーマに沿ったナレーション付きの動画
- 重要な細胞構造を強調した顕微鏡写真
- テキストの重要用語を復習するためのflashcardセット
- 検索と閲覧が可能なテキストの全用語集
ただし,やたら教員ばかり優遇されているのが個人的には若干不服です.特に,本文中で使用されている図表データはこれまで自分の勉強に役立ててきたので,学生の身分で利用できなくなってしまったのはとても残念です.そこだけは,現状で把握している第6版の改悪点です.
とはいえ,全体的には第5版から多くの改善が行われているように思えます.せっかく,念願かなって手に入れた書物なので,なるべく早いうちに一周読み切りたいと思います.
- 作者: Bruce Alberts,Alexander Johnson,Julian Lewis,David Morgan,Martin Raff,Keith Roberts,Peter Walter
- 出版社/メーカー: Garland Science
- 発売日: 2014/11/20
- メディア: Kindle版
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*1:原書 xixページ の目次(Contents)では第19章は第IV部(PART IV)に属することになっていますが,第19章のはじめのページに「ここから第V部」であることを示す表記がある上,内容的にも第V部に属する方が適切だと考えられるので,原書の誤植だと思われます.
*2:代わりに公式サイトで第5版の第21章のデータがダウンロードできるようになっています.
*3:ページ数削減のためと考えられますが,前述のとおり第6版は第5版より1章分削られている上,第5版の第21〜25章はDVD収録で印刷されていなかったり(後述),私の所持しているのが第5版は邦訳で第6版は原書であったりと,条件が異なりすぎているので,この紙面削減が最終的なページ数削減にどの程度貢献しているのかはよくわかりません.